シュガー・オン・シュガー

スコール×リノア

「何をそんなにブッスーとした表情でいるのかな、スコール君」
今日は久々にスコールとのデート。スコールのSeeDの任務がドールであった為にドールで待ち合わせをしたのだけど、いざ待ち合わせ場所に来てみればスコールの浮かない表情がそこに あった。時間には間に合っているから怒る原因なんて無い、と思うのだけれど。(任務の時は厳しいけれど、プライベート、特に私とのデートの時はそれくらいのことでスコールは 怒ったりしない筈。) 首をかしげて、どうして怒っているのかに対するスコールの返事を待ってみるがいくら待ってみてもスコールの返事は返ってこない。
ドールの街並みに橙色の夕焼けが綺麗に映えていく。夕焼けの具合から察するともうそろそろ日が暮れる時間になるのだろう(元々待ち合わせの時間自体が遅かったし)。早く移動 しないとデートの時間は刻一刻と少なくなってしまう。
これはもういくら待っても返事は返ってこないだろうなぁ。
こうなってしまったら待つだけ無駄だろう。スコールのゴツゴツとした手をとり、
「んもうこのままじゃ埒あかないし、早く予約していたレストランに行こう?」
と言って、リノアは歩きはじめようとした。
そこで機嫌が悪い理由を訊こうじゃないか。
今日予約していたレストランは予約で1か月待ちは当たり前の超が付く位の人気レストラン。予約した時間に少しでも遅れてしまうと入れなくなってしまう位から遅刻だけは 避けたいのだ。
ここ最近テスト期間があり、また、長期任務であるスコールと会えないこともあって心身ともに疲労していた。だからこそ、この日をどれだけ楽しみにしていたと思っているの だろうか!スコールとデートできて、そして美味しいごはんも食べられるなんて、…なんて最高なのだろう!この日の為に頑張ってきたと言っても過言じゃあ、ない。遅刻して 入れなかった暁にはもう―――。想像するだけでげっそりとした顔つきとなってしまう。
ゆえに早くそのレストランに赴こうと足を前に出したのだけれど、肝心のスコールは足を前に出そうとしない。ピン、と腕が真っ直ぐに伸びた。
「スコール?」
「……リノア」
「…なぁに?」
「いや…何でも、」
怒っている理由を話してくれるのかと思いきや、……話してくれない。スコールはそういう人だって分かっているけれど、分かっているけど、苛立ちが募り始める。こちとら遅刻したら 美味しいごはんがおじゃんになってしまうからそれだけは避けたいから急ぎたいのに。話ならレストランについてから聞こうと思っていたのに。
「言いたい事があるなら言ってよ!久々のデートだっていうのにずーっと不機嫌面で!」
「………っ」
「私は…私は……、ずっとこの日を楽しみにしてきたのに!スコールは楽しみじゃなかったんだね!!」
思っていることを何の一言も言わないスコールの代わりに、思っていることを何一つ隠せず吐露する。もう堪忍袋の緒が切れた。我慢の限界もいい所。
スコールも同じ気持ちだと思っていたのにスコールは違ったんだ。スコールは楽しみじゃなかったんだ。だってさっきからずっと不機嫌な顔でいるんだもの。
「スコールの馬鹿!アホ!もう知らないんだから!」
繋いだ手を離そうとする。こうなったら1人でレストラン行って食べてやるんだから!そう意気込み離そうとしたのだが、スコールは自身の手を強く掴んで離してくれなかった。何の つもりと睨んだ刹那、腕を掴まれそのままスコールの胸板へと寄せられた。そしてそのまま強く抱きすくめられた。離れようと両手でスコールの胸板を押そうとしてもスコールの 腕の力が強すぎて離れられない。
「機嫌…直してくれ」
「イ、ヤ!」
身動きが取れないスコールの腕の中でぷいっと顔を背ける。人が追おうとしたら避けて、人が逃げようとしたら追っかけてくるなんて……スコールのバカバカバカ、と何度も心の中で 呟いた。スコールが折れない限り、私は絶対折れないんだから。
「直して欲しいんだったら、スコールが機嫌悪かった理由教えてよ」
口を尖らせてリノアはスコールの胸板へと顔を埋めた。もうこうなったらレストランでの食事よりもスコールとの仲直りを優先しようじゃないか。スコールにとことん付き合って あげようじゃないか。と、意地になってしまっているけれど、本音を言ってしまえば、最初から食事なんて二の次でスコールの機嫌が気になって仕方ない。だって。今だって。顔は 伏しているけれど、チラチラと視線は上に向いてしまっているから。
リノアがスコールのことを盗み見している一方で、スコールはリノアの背中を優しくさすっていた。その様はまるでリノアを宥めるのではなく、自分自身を宥めているかのようだった。 そのあまりにも優しい手つきにリノアはほだされそうになるが何とか踏みとどまる。
「……妬いていたんだよ」
「はい?」
やいていた?やいていた、って、つまり、嫉妬……ってこと、だよね?
「待ち合わせ場所に来る前に男と話していただろ」
「なに…つまり、スコールはその人に妬いていたの?」
頭上が聞こえる予想外すぎる返事。まさか妬いていたから不機嫌が悪いとは微塵も思っていなかったら笑みが零れそうになってしまう。今ここで笑ってしまったらますます不機嫌に なるだろうから必死で我慢しようとしたけれどスコールの声色、とか、ちょっとだけ見える表情、とかをとらえてしまった今、我慢出来ないなんてことがあろうか。
クスクスと笑い声を立ててしまったら、今度はスコールが口を尖らせた。
「悪いか」
「スコールでも妬くんだね」
「一応これでも……リノアの恋人だからな」
いつもは恥ずかしがって言ってくれないような科白までついてきて、目を丸くしてしまう。まさかスコールの口からそんな科白が飛び出してくるなんて。
時々はぐらかすからスコールは彼氏であることを自覚あるのかなとか思っていたけど、それは杞憂だったみたいだ。いつもは自分ばっかり妬いているから―――だってスコールは あの容姿だもの―――本当は思っちゃいけないんだろうけれど、でも、嫉妬してくれて嬉しいって思わざるを得ない。
スコールの背中へと腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「スコール可愛いっ!」
「男に可愛いって言うな」
「んもうスコールったら、」
スコールの腕の力が弱くなったのを見計らって、軽く胸板を押す。先ほどと違って簡単に離れられた。抱き着いたばっかりで離れるのも残念な気がするけれど言いたいことはちゃんと スコールの瞳を見つめて伝えたいから。体は離れたけど、離れた気がしないのはさっきと違って今はスコールと心の内でちゃんと繋がっているから、かな。さっきまではスコールの 気持ちが分からなくて、とても遠い所が居たような気がしていたから。
リノアはスコールの腕を掴みながらじっと蒼い瞳をとらえた。妬いてしまったスコールを安心させる為にずっと思っていた言葉を伝える。スコールと違って恥ずかしいから言えない、 なんてことはないけれどやっぱり緊張する。スコールの瞳に映っている自分の姿を見つめながら、何とか落ち着かせ、そして、意を決したかのようにリノアは開口した。
「私の1番はずーっとスコールなんだから心配しないでも大丈夫だよ。だから、」
少しばかり背伸びをして目の前で頬を赤く染めている人の頭をぽんぽんと撫でる。
「もう妬く必要なんて無いんだからね」
ニッコリと笑って見せればスコールは居心地が悪くなったのか自身の手を先ほどよりもずっと強く握って歩き出した。先に歩くスコールが大股に歩く所為でスコールよりも歩幅の狭い リノアは早歩きで歩かなければスコールに追いつかない。普段だったら文句を言っていただろうけれどリノアは一言も文句を言わず、それに表情も険しくない。寧ろ、 笑みが咲いていた。
「もっとその照れ顔が見たいんだけどな〜」
「うるさい」
後ろから僅かに見えるスコールの横顔は夕日に染まっていることを考えても濃い赤い色に染まっていた。色々と思うことはあるけど(たとえば、無愛想だったり、自分の考えていることを 素直に離してくれなかったりとか)、やっぱり行きつく先は、私は、恋人のスコールのことが大好きなのだと言うことだ。スコールの赤くなった顔を見ていると、つい顔がしまらなく なってしまう。所謂、ニヤついた顔という奴だ。
口では刺々しいけれど2人とも手は繋いだままで指の一本、一本を絡めあわせ、決して離そうとしない。ドールの街中で2つの黒い影だけが重なっていた。





END