ファインダーの中とリアルな君

ジタン×ガーネット


嗚呼、また、だ。

さっきまでは熱心に手入れをしていたと思っていたのに。

気付くと向けられている彼が持っているカメラのレンズ。これで何度目だろう?疑問に思って何故自身の姿を撮るのか訊いてみても彼はいつもその答えを濁してばかりいる。
疑問の根源となっているその堅物はどうやら”一眼レフ”カメラというものらしい。そういう類の物は全く興味が無いけれど、毎回こうも、写真を撮られて続けられていると興味が 湧いてくると言うものだ。
丁度1週間前に、ずっと欲しかった物が手に入ったと聞いて、見せてもらったソレ。彼は機械の事が全く分からない私に丁寧に色々と教えてくれた。普通のカメラと違って、 ”一眼レフ”カメラは撮るのが難しいらしい。丁寧に教えてくれたのは良いけど、覚えている事と言ったらそれくらい。正直、露出だとかF値とかはもう何が何だか全然わからない。 けれど、その話をしている時の彼はとても活き活きとして彼の表情を見ているだけで、こちらまで楽しくなってきたのは記憶に新しい事だった。
そんな彼のお気に入りのカメラが向けられているのを気付かないフリをして、スタイナーとベアトリクスから課された仕事を黙々とこなしていたけれど、一度気付いてしまったら、 意識をそらす、何ていうのは不可能に近い訳であって。チラリと視線を動かしてみる…と直ぐに彼の声が耳に届いた。

「ダガー!カメラに目線を向けないで、そのまま自然な状態で仕事続けてくれよ!」
「そ、そんな事を言われても、写真を撮られていると分かってて意識しないなんて無理よ!」

心の内を素直に露呈する。
だって、私はプロの女優でもモデルでもない。一国の女王なんだもの。確かに大勢の人の前に立つ機会は普通の人々と比較したら、多い方だとは思うけれど、それでも写真を撮られると なると話は違ってくる。レンズを向けられても自然な状態なんて無理に等しいに決まっている。

「でも、俺は”仕事を真面目にこなす”ダガーが撮りたいんだよ!」
「だったら私が知らない所で撮ってくれるかしら…?」
「そうなると隠し撮りになっちゃうだろ!?」

ダガーの隠し撮りなんてしたら、スタイナーのおっさんがどんな顔で俺の元に来るか、ダガーも分かるだろ!?
そう言いながら、嘆く彼の顔は何処かひきつっていた。確か、つい先日、自身の私室に遊びに来た時バルコニーから来た事があった。彼の為にとバルコニーへと続くドアを開けると、 それと同時に部屋のドアが開き、そこからスタイナーとベアトリクスが現れ…あれよあれよと言う内に彼は連れて行かれてしまった。恐らく、あの時の事が彼の中で引っかかっているの だろう。いつも強気な彼なのに、スタイナーとベアトリクスにおびえる彼を見て、思わず笑ってしまった。

「おっ!その笑顔頂き!」

カシャン、と無機質な音が部屋に鳴り響いた。

彼はいつの間にか視線をファインダーへと向けていた。先ほどまで、どんよりとした表情をしていたと言うのに今はもうすぐに明るい表情をしている。ただ笑顔を見せただけで、 そんな風な表情をされると、こちらまで嬉しくなってしまう。
彼のコロコロと変わる表情は見ていて、飽きる事がない。一瞬一瞬、一コマ一コマ、例えるならパラパラ漫画みたいにどの表情も微妙に全部違う。その瞬間しか見れないのは何だか勿体 ないなとぼんやりと、思ったその刹那どうしてここまで彼が写真に拘るか分かった。
カメラを手に入れた時から必要以上に私にレンズを向けてくるのも、最初は恥ずかしくて撮られるのが嫌と言ってもめげずに撮り続けたのも、ファインダーを覗きながら穏やかな表情を しているのも全部。
………”残して”おきたかったから?

トクン、と胸が静かにふるえた。

「ふふふ…分かっちゃった」
「何が?」

ファインダー越し、ではなくて。ちゃんと目と目を合わせる。

「ジタンが私を撮る理由よ」
「えっ!?」
「そんなに隠さなくても良かったじゃない」
「ちょ、ちょ、ダガー、」
「だって、私もカメラを持ってたら同じことしていたもの」

彼は顔を真っ赤に染めて照れている。大切にしていた筈のカメラも今、手元から落ちかけている。ここ1週間触ろうとしても、触らせてくれなかった大事な大事なカメラ。落ちかけている カメラを手に取り、ファインダーを覗く。レンズ越しだとナマで見るのと少し違う。彼はいつもここから自身の事を見ていたのかと思うと、ちょっとばかし羨ましくなる。こんな風に 見えるのだったらもっと前からカメラを手に入れておけば良かったと後悔をする。そうしたら、私だって彼の事をファインダー越しに覗いて写真を撮ることが出来たのに。
いまだに頬を染めて口をパクパクと開けている彼へとレンズを向ける。拙い手つきで適当にシャッターを押すと、また、カシャリと言う音が鳴った。…どうやら上手く撮れた みたいだ。
口角を上げて、ダガーはそっとジタンの手もとにカメラを戻した。

「照れ顔、………頂いたわよ?」



END