目が覚めると、見知らぬ天井が目に入った。
体を起こそうとして、力を入れようと思っても力をうまく入れることができない。まるで、神経が通っていないみたいだ。
― 俺は、助かったのか…?
仲間たちと別れた後、クジャを助けるために、イーファの樹に向かった。暴走し続けるイーファの樹の妨害を何とか避けて、避けて、クジャを見つけた。彼は、どうにか生きてたが、
かろうじて喋れる位だった。そして、クジャを連れ出そうとしたはいいものの最後の最後で、触手のような大きな木が襲いかかってきた。
…そこで、自分の意識は途切れた。
まず自分が何処に居るのか、何故このような状況下にあるのか、把握をしようと思い、視線を上下左右に動かす。
どうやらここは、見た感じだと、黒魔導師の村の家らしい。最後の決戦の前に立ち寄った時、この家は確かに見覚えがある。把握を終えると、次なる疑問が浮かんだ。
― クジャは!?アイツはどこだ!?
自身がいる部屋にはベッドが1つしかないし、彼がいる気配も見えない。
力が入らない体を、何とかして起き上がろうとする。だが、先刻目が覚めたばかりの体。思うように動かないのは当たり前。ジタンは、バランスを崩し、
そのままベットの下へと落ちた。
「…いってー…」
思いっきり背中を打ってしまい、激痛が走る。ベッドの中に居た時は気づかなかったが、どうやら身体中に包帯が巻かれているらしい。巻かれていたお蔭で、
少しばかりクッションになったらしい。(それでも、痛いのだが)
自分の手で、ぶつけた所をさすっていると、部屋のドアが開いた。入ってきた人物は、予想外の人物だった。
「あなた……目が覚めたの…?」
「ミコト…?」
ここは、黒魔導師の村だし(今はジェノム達も共に暮らしているが)、てっきり黒魔導師たちが入って来るのかと思ったら、入ってきたのは、
自分とクジャと共に”特別”なジェノムとして作られたミコトだった。
ミコトは、自身が目を覚めたことに対して、驚きを隠せないのか、持っていたお盆を手から離した。最後に会った時は、全然、感情を表に出していなかったが、今は、
手に取るように分かる。
「物音がするから、部屋をのぞいてみれば…あなたっていう人は…突然、目を覚ますんだから」
「もしかしなくとも、心配してたのか?」
「………」
返事は返ってこず、代わりに重いため息をつかれた。
…どうやら、俺の妹様はまだまだ自身に心を開いてくれないようだ。
「って、俺の事より、クジャは!?クジャはどうしたんだ!?」
ガバッと身をおこし、彼女に尋ねる。今すぐにでも、探しに行きたいのだが、体が思うように動かないから、ミコトに訊くしかない。出来れば、
良い返事を聞きたいものだが、彼女の表情が一気に、ばつが悪いような表情に変わった。
ジタンの頭の中に、最悪な”答え”が浮かんだ。
「彼は…クジャは……生きてるわ」
「…えっ!?」
予想していた答えとは違ったものが、ミコトの口から発せられて、ジタンは思わず、素っ頓狂な声を上げた。
「あなたよりも…そうね、1か月位前に目を覚ましたわ」
「そんなに早くもか?!」
「ええ…それで、徐々に体力が回復していって、………」
「いって…、どうなんだよ」
ミコトは途中で、言葉を紡ぐのを止める。
ジタンの蒼い瞳が、じっとミコトの蒼い瞳をとらえる。その様子から、ジタンがどれだけ真剣なのかがうかがえる。ミコトはそんなジタンの様子を見て、
渋々といった感じに重い口を開けた。
「突然、私たちの前から消えたわ」
「何だと…」
「最初は心配したわ。あれだけの事をした人を野放しにしていいのかって」
「………」
消えた…?クジャが…?
衝撃的過ぎて、頭が真っ白になる。予想外すぎる展開に、頭がついていかない。
「でも、あの人の魔力は殆どないような状態だったし、何よりもここで養生している間、あの人は、常に優しい表情をしていたわ」
「…そうか。まぁアイツが自分から出ていったんだったら、俺はもう何も言わねぇよ」
クジャはクジャなりの生き方がある。
無事だったら、それで良い。生きている、それだけで、満足だ。
ジタンは、ミコトの手を借りて、何とか立ち上がり、ベットへと戻る。ベッドの上に腰を下ろすと、蒼い瞳がこちらを見つめていた。
「ねぇ…あなた、これから、どうするの?」
「どう…って、言われてもなぁ…目が覚めたばっかだし」
「今がいつだか分かって言ってるの?」
ミコトの元から吊り上っていた目つきがさらに吊り上る。
「そうだよ!おい、ミコト、今、いつなんだ!?」
「イーファの暴走から、約2年経ったわ。そして今は1月10日よ」
「2年って、嘘だろ…」
ミコトの言葉が反芻される。2年という長い月日の間、自身は眠り続けたというのか…?
先程から衝撃的な事実が続き、ジタンの頭が追い付こうとしない。それもそうだろう。2年という月日があれば、さまざまな事が変化する。それを一瞬で追うなんて、
不可能に近い。
「因みに、あなたが生きてる事を知ってるのは、この村の者だけよ。今、あなたは世界的に行方不明って所になってるわ」
「じゃあ、ダガーとかは、知らないんだな…」
「ええ」
ミコトは静かに頷いた。
自身の”存在”を知ってるのは、この村の者だけ。
そして、今は1月10日…1月10日…10日…10日?
― って、もうすぐダガーの誕生日じゃねぇか!
こうしちゃいられない!
起きたばかりの頭をフル回転させて、考えを張り巡らす。何か、何か、良い案は無いか―――。
そうこうしている内に、ふとある作戦が、ジタンの頭に閃いた。
END