ヘゲモネを求めて 後編

ジタン×ガーネット

「貴方は今、行方不明って事になってるのよ。そのままで行ったら、どこそこで驚かれるわ」

真顔で淡々と話すミコトの表情が思い出される。
気にしてないように見えて、自身の事を心配してくれるのかと思うと、思わずニヤけてしまう。(…本人はそれを全力で否定しているが。)
今まで、タンタラスと言った”家族”は居たし、タンタラスの場所も大好きだけれども、やはり自分と同じような存在が居るのと居ないのとでは違う。タンタラスに居た時とは 違う…言葉ではうまく言い表すことが出来ないが、”温かさ”に包まれているような気がする。

「だから、これを着ていけば良いと思うわ」

そう言いながら、渡されたのは黒いフード付きのマント。いったい何処から手に入れたとツッコミを入れようとしたが、そのセリフは喉元で消えた。理由はもちろん、 蒼い瞳が、訊くなと言わんばかりの瞳で睨んでいたからだ。


***


ジタンは、ミコトから手渡されたマントを羽織りながら、駆け足で、アレクサンドリアに向かっていた。足首まである裾が正直、鬱陶しくて仕方ない。何度も脱ごうとしたが、 その度にミコトの表情が思い出されるので、脱げないでいる。
正直、体は全快していないので、いつ倒れてもおかしくない状況だ。黒魔導師の村を出る時も(おとといの事であるが)、ミコトを始めとするほかの者たちも行くことに対して 反対していた。また倒れたらどうするのか、と。

しかし、こればっかりは譲れない。
イーファの時、彼女は自身に言ったんだ。今にも泣きだしそうな表情で、「絶対に帰ってきて」と言った。そんな事を彼女…ダガーに言われて、帰ってこない訳がない。
自身は2年間、寝続けたが他の仲間たちは違う。2年間、ずっと、目を覚まして、生きてた。もし、ダガーと自身の立場が逆転していたら、俺は、会えない辛さで、 どうにかなってしまいそうだと思う。自分がそう思ったように、ダガーもそう思っているのだろうか…?こればっかりは、彼女本人に会わないと分からない。
ダガーの思いを早く知るためにも、ジタンは走るスピードを上げた。


***


― ようやく着いたか…、


外側の大陸から、走り続けて、何とかたどり着いた。息切れをしながらゲートを抜けると、アレクサンドリアはお祭り状態だった。街の至る所で、幼い子供たちが、 駆けまわっている。何か、あるのだろうか…?
刹那、地響きに近いような音が耳に届く。瞬時に、顔を上に向かせると…、劇場艇が目に入った。もしかして、と期待が湧いて出てくる。ジタンは近くを走っていた子供を呼び止め、 訊く。

「なぁ…今日は、もしかして、タンタラスの劇があるのかい?」
「そうよー!お兄さん、知らなかったのー?」
「今日、アレクサンドリアに着いたばっかりだからさ」
「そうなの?早くしないと、チケット売れちゃうわよー!なんたって、ガーネット女王様のお誕生日を祝う劇ですもの!」

それじゃあね!と言うや否や、その子供は、城の方に向かって一目散に走りだした。
ふむ、とジタンは片手で顎を支え、考える。

― これを利用しない手はないってか?

ジタンの口角がだんだんと上がる。フードをを深く被り、顔をさらに隠すと、また駆け出した。


***


この服装のおかげで、大分不審者扱いをされたが、何とか劇場艇へと忍び込めた。頭の中にある、見取り図を頼りに、タンタラスの団員が居るであろう場所を目指す。
銀色のポールを音を立てず、静かに静かに降りて、足を地につける。そして、そのまま、近くにあるドアを目指す。聞き耳を立てると、中から話し声が聞こえる。数年ぶり?に聞く、 彼らの懐かしい声にジタンの心が躍った。
バンッと勢いよく音を立てながら、ドアを全開にする。突然の物音に、室内に居たタンタラスのメンバー―――バクー、ブランク、シナ、マーカス、ルビィ―――の視線は、 黒マントを羽織った男に向けられていた。

「誰ずら?」
「ちょお!一般人がこんな所に来たらあかんで!?」
「すぐに、アレクサンドリアの街に戻るッス」
「ここに忍び込むなんて、大した奴だな………だが、」
「俺らが誰だかわかって入ってきてるのか?」

各々の言い分を聞き終えると、黒マントの男は、パチパチと拍手をして見せた。

「誰とはひでぇなー…元、仲間の事も忘れちまったのかい?」

刹那、自身を覆っていた黒マントを勢いよく脱がし、遠くへ放り投げる。
ニヤニヤとしながら、彼らの表情を見ると、予想通り、彼らの顔は呆然としていた。誰もが目が点になっている。だが、それも束の間。すぐに歓声が上がった。

「ジタンッ…!生きてたんやね!」
「ジタンずらー!」
「久しぶりッス、ジタンさん」
「しぶといな、お前も」

席を立ち、周りを囲まれる。にぎやかな、この感じ。旅をしていた所為もあって、とても久しぶりに感じる。
4人と一通り話し終えると、奥で、仁王立ちしているボスに向かって、この上ない笑みを向ける。

「ボス、久しぶり!」
「よく生きてたな、ジタン」

のっしのっしと大きな体を揺らして、自身のもとへとやってくる。自然と4人が退き、ボスが通る道をあける。そして、ジタンの金色の髪の毛を、ガシガシと撫でた。だが、 ジタンはボスの撫でている大きな手を掴んだ。突然の行動に、ボスが一瞬、驚いた身振りを見せる。

「それで、突然来て悪いんだけど、頼みごとがあるんだ…聞いてもらえるか?」
「何々ー?気になるやん!」
「今日、演る劇で………」

周りに人がいないにも関わらず、5人にしか聞こえないよう耳打ちをする。話し終わると、5人の顔色をうかがう。ここで、全員から承諾されなければ、 自身が思い浮かべている自分と彼女の劇的な再会が出来ない。(これ以上、良い再会なんて思いつかないし)ジタンは、心臓を早鐘の様に、鳴らしながら、彼らの口が開くのを 待った。


***


舞台奥から、マーカスが声を出すのに合わせて、口を動かす。声を出してしまったら、ロイヤルシートに居る、彼女に自身がいるのがバレてしまうからだ。 バレないよう細心の注意を払いながら、”マーカス役”を演じる。ここで、バレてしまったら、突然の申し出に、協力してくれたタンタラスのメンバーに申し訳なく感じる。 フードの奥からこっそりと、舞台そでにいるシナに確認すると、どうやら、まだバレていないらしい。

コーネリアがブランクによって、気絶され、劇の終盤―――俺にとって、大事なシーンが始まる。
今までの劇団員をやっていた人で、ここまでの”告白”…まるで、お芝居であるかの様な”告白”をした人が居ただろうか?…答えは否だろう。普通の人から見たら、 キザすぎるにも程がある、と自分自身に対して笑う。
でも…、久しぶりの再会なのだ。やや行き過ぎた再会も許してくれるだろう。

『おお、月の光よ、どうか私の願いを届けておくれ!』

裏方から叫ぶマーカスの声がここで終わる。
…さぁ、ここから、ジタン・トライバルの一世一代の告白が始まる。

ジタンは、覆っていた黒マントを勢いよく剥いだ。

「会わせてくれ、愛しのダガーに!!」





END