ジタン達は、珍しくリンドブルムにいた。彼らは、最近、専ら経験値を稼ぐ事に必死だったが、終わりに目途がついたので、今日は、各自で休憩する事になった。
ここ最近、経験値を稼ぐのに必死すぎて煮詰まっていた所為か、休憩する事に対して、反対する者はいなかった。
リンドブルムに着くと、荷物を置かず、そのまま買い物に行く者もいれば、宿屋に行って体を休めようとする者もいたが、ジタンは、後者だった。
宿屋に荷物を置いて、体を休めさせようと思っても、外はまだ日の光がさんさんと降り注いでいる。その為、カーテンを閉めても、光が漏れだして中々寝付けそうにない。
― さて、どうすっかな……、
ただじっとしてるだけじゃ、時間がもったいない。…とりあえず、外に出てみるかと思い、ドアノブを回してドアを開ける。すると、バッタリ彼女に出会った。
「よ、ダガー」
「あら、ジタン。…?寝るんじゃなかったの?」
「ダガーこそ、寝るんじゃなかったのか?」
彼女も自身と同じ、体を休めさせようと宿屋に来ていた。(因みに、クイナとサラマンダーも来ていたが、2人は何処でも寝れる体質らしく、早々に寝てしまった)「おやすみ」という
言葉を彼女と交わしたのは、つい数分前の出来事で、記憶に新しい。
「寝ようと思ったのだけど、寝れなくて…だから、外に出ようと思って」
「お、奇遇だな!俺も寝れなくて、外に出てみたって訳!」
外に出た理由が、全く同じ理由で、思わず笑ってしまった。彼女も手を口もとに持って行って、くすくすと笑っている。
2人して宿の廊下で笑っていると、ジタンの脳裏に”ある事”が思いつく。―――他のメンバーはいないし、2人で出かけるのに、これは絶好のチャンスなんじゃないか?と自問する。
…彼女の事だから、無理かもしれないが、一か八かで、誘ってみる。
「じゃあ、ダガー…ついでだし、一緒に回らないか?」
「ええ、良いわよ」
「マジ!?じゃあ、早速行こうぜ!」
断れるかと思っていたので、予想外な返答にジタンは、心の中で、ガッツポーズをした。そして、ダガーの返事を聞くや否や、すぐさまダガーの手を取り、駆けだした。
彼女と出かけることになったのだ。一分一秒たりとも無駄には出来ない。つい数分前まであった、眠気はどこかへ昇華されてしまった。
***
リンドブルムに着いた時は、珍しく雨が降っていたが、ジタン達が出かけるころには、すっかり止んでいた。だが、今もなお、雨独特の匂いが街を包んでいる。
経験値を稼ぐ事も終わりそうなので、これから霧の大陸を出て、”外”へと行く。今回は長くなりそうなので、その為にも、色々な物を補充しとおかなければならない。
道具屋で、ポーションやらフェニックスの尾を買い、武器屋で合成したり、新しい武器を買ったりする。そうこうしている内に、ジタンの両手にはたくさんの紙袋が
抱えられていた。
「ジタン、大丈夫…?持とうか?」
「大丈夫、大丈夫!余裕余裕ー」
「でも…ジタンだけ持ってて、私が持ってないなんて…」
「ダガーはそんな事、気にしなくていいんだよ!それに、女の子に重い荷物なんて持たせられないって!」
紙袋と紙袋の間から、ニカッと歯を出して笑うと、ダガーも安心したかのように苦笑して見せた。
「じゃあ、そろそろ帰る?」
「えっ!?もう帰んのか!?」
彼女の口から予想外な言葉が出てきたので、思わず持っている紙袋を落としそうになった。
折角、2人きりで出かけて(デートして)いるのに、”それらしき事”が一切、何も出来てない。こんな機会は二度と回ってこなさそうなのに。(現に今までずっと彼女と旅してきたが、
彼女と2人きりで出かけたのは初めてだ)
何か、何か、彼女と何か記念に思い出づくりをしたい。そうじゃなければ、彼女は今日の事を忘れてしまうに違いない。彼女は天然と言おうか、鈍いと言おうか、
…簡単に言ってしまうと、恋自体に疎いから。
必死で、周りを見渡す。何か無いかと視線をあちらこちらに向けるが、いい感じのお店が近くにない。
ジタンが探していると、ダガーとジタンのお腹からぐぅぅと恥ずかしい音が2人の間に鳴り響いた。途端、ダガーの顔が真っ赤に染まる。
「そうだよな〜お昼時に近いもんな〜」
「何よ!ジタンだって、鳴ったじゃない!」
真っ赤にしながら、恥ずかしそうに眼を逸らす。
そんな彼女も可愛いなと思いつつ、自身もお腹が空いてきた。音が鳴ってしまうと、ますますお腹が空く感じがする。
「昼ご飯食べれる程の金は残ってないしな…」
と、キョロキョロと辺りをもう1度見渡すと、ある出店が目に入った。どうやら、出張でクレープを売りに来ているらしい。2人分買えるお金はある筈と思い、
ダガーをその場に残ってるよう指示し、急いで買いに行った。
***
両手いっぱいにあった紙袋を何とかして1つにまとめ、2つのクレープを片手ずつ持ち、ダガーの元へと帰る。彼女は自身が何を持っているのか気づくと、笑みが広がった。
彼女の元へと行き、自身が持っているクレープの1つを彼女に渡す。
「ありがと、ジタン」
「どういたしまして。そこにベンチがあるし、一緒に食おうぜ!」
「ええ!」
彼女を見ると、よほど、お腹が空いていたのか、もう食べ始めてる。クレープを小さな口で一口一口食べてる姿は、本当に可愛らしくて、ジタンは本日2度目のガッツポーズをした。
だが、ベンチの前にたどり着くと、先程まで雨が降っていた所為か濡れてしまっている。ベンチが木で出来てる所為もあって、じっとりとしている。
「あちゃー…これじゃあ、座れねーな…」
「何処か、別の場所に行く?」
「いや、ちょっと待て、」
ジタンは荷物をベンチの上に置く。
― 確か、ポケットにあったような…
ゴソゴソと漁っていると、目当ての物が見つかった。
ジタンが、出したのは大きめのハンカチだった。それをパッと広げて、ベンチの上に広げる。ベンチの上には、1人分座れるスペースが出来上がった。
「どうぞ、お姫様」
「でも、ジタンが座れないじゃない」
「俺は良いんだよ。ダガーさえ座れれば」
な?とウィンクして、座るよう促すと、彼女は苦笑しながらも、ベンチへと腰を下ろした。
「ありがと、紳士さん」
「いえいえ、どういたしまして、お姫様」
END