harf Under one Umbrella

ジタン×ガーネット

私がその光景を見たのは、そう、つい先日の事だ。

リンドブルムの一兵士として働く私は、休日をこじゃれた喫茶店で過ごしていた。読書が趣味な私は、こうして休日を喫茶店で過ごし、そこで本を読むのが日課となっているのだ。
天気が悪い今日は、いつも程ではないが、そこそこ混んでいた。私は、いつも頼んでいるお気に入りのコーヒーを頼み、外の景色が見える席へと座る。いつもだったら、 リンドブルムの街並みが一望できるのだが、今は曇り空でよくは見ることが出来ない。

本を読み始めて、どれ位経ったのだろうか。ふと、外を見ると、空からとうとう雫が落ちてきた。念のために、傘を持ってきて良かったと安堵する。私がいる喫茶店にはぞくぞくと 人がやってくる。止むまで、時間つぶしに入ってきたのだろう。店内は人がまばらに居た程度なのに、今は満席状態だ。
また視線を外へと戻すと、遠くの方から城でよく見かけた人物が視界に入ってきた。黄金色に輝く髪色に、髪色と同じ色の尻尾が生えた人―――ジタン殿が目に入った。
リンドブルム城で警備兵として勤める自分は、ジタン殿を目にする機会はとても多かった。ジタン殿はリンドブルムで人気のタンタラス団に所属している人だから、 ここリンドブルムで知らな人はいないと言っても過言ではない。そして、さらにジタン殿は、世界を救った英雄として、リンドブルム外でも有名だ。(勿論リンドブルム内でも 英雄として有名だが)
そんな彼だからなのか、よく城にやってくる。一般人は上層部の元へは来れないのに、彼は通行証も無しにほぼ顔パスと言っていい位に、通れる。だから、 警備兵として働く私は彼を見かけるのが多かった。

そんな彼が今、目の前に居る。目の前と言ってもガラス越しではあるが。自身は窓越しに向かって座っていて、彼は窓越しに背を向けて立っている。
よくよく彼の隣を見ると、これもまた見知った人物がいた。アレクサンドリア王国の女王、ガーネット女王だ。彼女も彼女で、世界を救った英雄として有名で、それにジタン殿の 恋人としてもリンドブルムでは有名だ。今はお忍びで、2人でデートでもしてるのだろう。彼女は深く白いフードをかぶってる。

ここの喫茶店のガラスは薄いのか、彼らの声が店内に居る私の耳に届いた。

「大丈夫だったか?濡れなかったか?」
「ええ、大丈夫よ」
「急に降って来たもんなぁ…うーん…傘、持ってたりする?」
「念のためにも一応持ってきておいたわ、ほら」

そう言いながら、ゴソゴソと出したのは可愛らしいピンク色の傘をだった。

「おっ!じゃあ、これを差して帰るか!」
「差すって……この傘を2人で?」
「?当たり前だろ?1つしかないんだから」
「そうだけど…」

頬を赤く染めてる彼女はきっと、これから”する事”に恥じてるのだろう。
世に言う”相合傘”と呼ばれる物を。

「雨もやみそうにないし、そろそろ宿に帰った方が無難じゃないか?」
「そうだけど…でも、」
「ほら、貸してくれよ!」

半ば強引に傘を奪い、傘を開く。そして、彼女の肩を引き寄せたかと思ったら、駆けて行った。

― 初々しいカップルみたいだなぁ

クスッと笑いながら彼らが去っていくのをコーヒーを飲みながら見届ける。
じっと目で追っていくと、ジタン殿が傘を持っているわけだが、途中からガーネット女王へとその傘を傾け始めた。傘を差した最初は、お互い傘を半々に分けていたが、今は、 ほぼ彼女に傘が傾いている。ジタン殿は殆ど、雨に濡れていると言っても過言ではない。彼女は走るのに懸命で、傘が自分に傾いているのに気づいていないようだ。

― …本当に外見も中身も格好いい人だ

今度、城内で会ったら、こっそり今日の事を言ってみよう。今から彼がどんな反応をするのかとても楽しみである。



後日、人伝に聞いた話によると、どうやらデート後、風邪を引いてしまったらしい。
その話を聞いた瞬間、私の顔に笑みが広がったのは言うまでもない。





END