唯一の日

ジタン×ガーネット

今日はどうやら自分の誕生日らしい。”らしい”というのは自分は、人工人間だからだ。正確にはいつ作られたかなんて分からない。自分の誕生日とかそう言うのに疎く、 誕生日なんてどうでもいいと思っていた。しかし、誕生日がいつなのか分からないという旨をダガーに伝えると、とても驚いて、「それじゃあ、ジタンの誕生日を作りましょう!」 と言っていたのは記憶に新しい。そして、9月某日、…つまり、今日が自分の誕生日になった。

タンタラスに居た時は、同じ年齢の子達をいっぺんに祝っていた。タンタラス全員で、皆を祝った。…だが、今年は違う。俺だけの為の日が出来た。そして、 愛する人が祝ってくれる。昨日、夜寝る前に明日は楽しみにしていてね!と笑顔で言われて、思わず口角が上がりかけた。彼女は不意打ちで可愛い事を言ってくる天然さんだから、 不意に顔が赤くなったり、口角が上がったりするのはよくあることだ。
そんな事を脳内で思っていると、また口角が上がり始めてきた。誰もいない部屋で1人で笑っているなんて、怪しいにもほどがある。口を手で覆いながら、寝ている体を起こすと、 目の前に予想外な人物が立っていた。

「おはよう、ジタン!良い朝ね!」
「ダガー…?え…?」

何で、ここにいるんだ…?今日は、朝から公務じゃなかったっけ?夕方から会えるんじゃなかったっけ?

あまりの予想外な出来事に脳裏に一気に色んな疑問が浮かんできた。その疑問が顔に表れていたのか、ダガーはふふっと上品な笑いをしながらこちらに近づいてきた。

「あのね、ジタンを驚かせようと思って嘘をついたの」
「そう、なのか…?」
「ええ!」

いつもの白くてまっさらなドレスの裾を引きずり、ベッドの端―――ジタンの隣に座った。
そして自身と向き合うと、満面の笑顔をみせた。

「誕生日おめでとう、ジタン」
「…ありがとう、ダガー」

軽くキスを交える。
ダガーの唇は何処か甘くて、朝からキスをもらえるなんて幸せだとぼんやりと脳裏で思う。流石に朝だから、触れるだけのキスだったけれど、それでも幸せだ。きっと結婚をしたら、 こんなことが毎日起こるんだろうなと想像するだけで、内側から幸福が満ち溢れてくる。
唇を離すと、僅かに微笑みを見せてくれて、思わず胸が高鳴った。何度も見ても、何度じっくりと見ても、やっぱりダガーの笑顔程、可愛い笑顔は見たことが無い。今までに 女の子の笑顔を沢山見てきたけど、ダガーの笑顔の可愛さは群を抜いて飛びぬけてる。可愛さだけじゃなくて、優しさも温かさも含んでいる。
だから見る度にダガーの笑顔に惚れている。


いつまでもこの服装のままいたくはないので、ベッドから抜け出そうとする。自身が何をしようとするのか察したのか、ダガーはベッドから降り、自身に背を向ける。思慮分別が あると言おうか、恥ずかしがり屋さんと言おうか…別に見ても良いのにと思いながら、服を脱ぎ着替えていく。
さてどの服を着ようかと悩んでいると、後ろからぼそぼそと声が聞こえた。

「それでね、あの、ジタン…、」
「んー…何だー」


いつもの服、でも良いか?
いやでも、どうせなら特別な服を着るべきか?
だが、それは期待してるってアピールしすぎか?
…うーん、やっぱり、いつものにするか!


そう思い立ち、いつもの服を手に取り、着替える。

― いつもの服が何だかんだで落ち着くなー…

着替え終わり、振り向こうと思った刹那、思いもよらない言葉が降ってきた。

「…い、今から私が、あなたを誘拐しようと思うの」

あまりにも予想外の言葉すぎて、開いた口がふさがらない。
直ぐに振り向くと、いつの間に此方を向いたのだろうか?自身の方を向きながら、顔を真っ赤にして立っているダガーの姿があった。

「い、今、ダガー何て言った…?」
「だからね、私があなたを誘拐したいの…!」
「それって…つまり…」

ダガーと俺が初めて会った時、俺が言った科白だよな…?

口を阿呆みたいにぽかんと開けていると、真っ赤にしながら近づいてきて、両手で俺の片方の手を包み込んだ。

「今、から、…私めがあなたを誘拐させていただきます…!」

いっぱいいっぱいになりながら、その科白を言っている。きっと今、彼女自身の中には羞恥心しかないのだろう。そう思うと、つい笑いかけてしまうが、ダガーが怒るから 何とかして笑わないように努める。

「それはデートのお誘いですか、お姫様?」
「そうだけど…駄目、かしら?」
「いやいや、そんなことは無いけど吃驚したよ」
「だって初デートでしょう?ジタンが私をお城から連れ出してくれた時と同じ科白を言いたかったんだもの」
「あれ、そうだっけ?」
「そうよ、もう…!付き合い始めてから初めてのデートよ!」

腰に手をつけて頬をふくらます。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
でも、そうか…初めての”デート”か。道中2人で出かけるなんて事は沢山あったから初めてな気はしなかった。しかし一度言われてしまうと、”初めてのデート”が気になって 仕方ない。しかも今日は俺の誕生日…きっとダガーが何かをしかけてくれるだろう。
腰につけてる手をとり、駆けだす。

「ジタン!?」
「時間がもったいないし、早く行こうぜ!」
「そ…うね!行きましょう!」
「楽しませてくれよ?」
「言われなくてもそうするつもりよ」

お互いに笑いあいながら、走る。
”初めての誕生日”はまだ始まったばかりだ。






END