そして、夢から醒める

ティーダ×ユウナ

ドキドキと高鳴る胸。火照っていく頬の熱。震えはじめる足。
待ち合わせ時間の十分前にユウナはルカの待ち合わせ場所として知られる時計台の元へとやって来ていた。今日はキミが帰ってきて、二人で遊びに行く初めての日。 名目はこの二年で変わった箇所を回ると言うものだけど、それは建前。本音はキミと所謂……デートと呼ばれるもの、をしたいからリュックとこっそり計画を立てたのだ。 街の案内と言う名目なら、気兼ねなく誘えるから。
キミが帰ってきてからというもの、お互いに気まずい日々が続いていた。あれだけ恋しかった人が傍にいるというのに。あれだけ話したいと思っていた人が傍にいるというのに。いざ、 再会してみると、どうしたらいいか分からない。どうやって対応したらいいか分からない。
キミに対する気持ちはこの二年間、微塵も変わっていないけど、キミはどうなのかな? キミは変わってしまったのかな? その答えが訊くのが怖くて、どうしても歩踏み込めない。
だから、少しだけ距離が開いてしまった日々を過ごしていた。キミもキミで、そんな私の気持ちを察してか、私に積極的に近付こうとしてくれない。二年前のあの旅の途中、 マカラーニャのあの森で、お互いの気持ちは言わずとも確かめ合ったけど、今もそれが続いているのかな。キミはまだ私の事を好いてくれているのかな。もしかして、もう私の事、 何とも想っていないのかな。辞めた方が良いにも関わらず、思考はどんどん負の方向へと突っ走ってしまう。
そんな二人を見かねてか(二人と言うよりかはむしろユウナに対してだが)、リュックがユウナにこの計画を持ちかけた。
「街案内って、言って、チィをデートに誘っちゃいなよ!」
リュックのその言葉を聞いて、ユウナは二つ返事でティーダを誘いに行った。これがきっかけになればと思って。何かきっかけがないとこのままずるずると微妙な関係のまま、 月日を過ごしてしまいそうだったから。それと、純粋にキミと出かけてみたかったから。一緒にザナルカンドを目指していた時から密かに願っていた。いつかキミと二人だけで、 出かけたい、と思っていたから。
そして、今へと至る。あの時は勢いもあって誘えたけど、今になってドキドキと鼓動が止まらない。キミは了解の返事をしてくれたけど、もし、来なかったらどうしよう。 キミに限って、そんな事は無い!と断言できるけど、それでも、もし、と考えてしまう。
リュックに見立ててもらった洋服と髪型。シンプルに青色のカシュクールワンピースで、白のミュールを合わせて、髪の毛は二年前を意識して、 いつもだったら外はねさせている髪型からストレートに。キミに似た人が映っているスフィアを見て、 旅に出ようとしたあの時―――大胆に自分自身の容姿を変えた時―――もそうだったけど、リュックのコーディネート能力は感心に値する。 いつもの自分とは全く容姿になるのだから鏡を見て、とても驚いた。そして吃驚する一方で、とてもあつかましい事まで考えてしまった。
可愛い、って、思ってくれるかな……?
リュックには何回も可愛いって言ってくれたけど、キミもそう思ってくれるかな? 関係が不安定なまま、こんな事を考えているのは本当に図々しいと思うけど、 それでも好きな人には可愛いと思ってほしいのは世界共通の願いだと思うから。
ユウナが時計を見ると、待ち合わせ時間の五分前。キミが来てもおかしくない時間だと思った刹那、ポンと肩を叩かれる。びくりと体を大きく震わせて振り向けば、 待ち望んでいた人が息を切らして立っていた。
「ゴメン、ユウナ!待ったっスか?」
ハァハァと荒い息を漏らしながら、片膝に手を当てて、なんとか落ち着かせようとしている。ティーダのそんな姿を見て、ユウナの緊張がするりと解ける。
「ううん。私も今、来たばっかりだよ?」
「なら良かった」
歯が見える位、大きく笑う姿にユウナはどきんと心臓を震わせる。ずっと恋しかったキミの笑顔をこんなに間近で見られるなんて、本当に私は幸せものだ。自分が蒔いた種だけど、 最近はキミの傍に行けなかったから。そう思うとユウナの顔も自然と綻ぶ。先程まで地に足がついていなかったのに今はしっかりとついている。
呼吸が落ち着くと、ティーダは片膝に手を当てるのを辞めて立ち上がる。身長はキミの方が大きいから必然的に見上げるキミの顔。帰ってきてからというもの、 こんな間近でキミの顔を見(まみ)えるのは再会した時以来だから、なんだか気恥ずかしく思えてくる。ユウナがティーダを見続けている間、 ティーダはユウナの容姿を上から下までじっと凝視していた。その事に気付いたユウナは照れもあって、少しだけ顔を俯かせた。
「ど、どうしたの……?」
「いや、今日のユウナの格好が可愛いなぁ……って思って」
頤に手を添えて、何も臆せずに言ったものだから、ユウナは頬を真っ赤に染め上げる。ティーダを待っていた時とは比べものにならない位、紅色一色になっている。 ティーダはまさか声に出していたとは思ってもみなかったのか、ユウナの反応で声に出していた事に気付き、ティーダまでも顔を赤くする。
気恥ずかしい雰囲気が流れる中で、その空気から打開させたのはユウナの方だった。
「あ、あのね!今日はルカの新しく出来たお店とかミヘン街道の方にも行ってみようかと思うんだけど、どうかな?」
「い、いいと思うっス!」
「じゃ、じゃあ、行こうか」
ユウナが体の向きを変えて、ミュールの音が響こうとした瞬間、差し出された手。どういう事だろうと疑問に思っているとティーダは口をまごつかせながら、呟いた。
「あの、さ……今日って、その、デートって事で良いッスよね?」
「へ!? う、うん」
言葉の意味を理解しないまま、頷いてしまった。けれど直ぐにユウナはティーダの言葉を頭の中で繰り返した。そして、ティーダが何を言ったのかを理解するとユウナは折角、 僅かに引いたのに、またも頬の温度が上がる。
キミの口から「デート」という単語が出てくるなんて……!
しかも、その言葉を出さずに今日、キミを誘ったのに悟られていた、だなんて。肯定までしてしまったし、後には引けなくなってしまって恥ずかしくて土に埋まりたい気分だ。 自分はそのつもりで来たし、間違ってはいないから今更、否定しようとは思わないけど、……そういう「名目」だとキミが嫌がったら―――。ユウナは何とも言えない気持ちのまま、 とりあえず自分の両手で熱を引かせる為と、表情を隠す為に頬に手を当てる。ユウナはティーダの事を正面から見ることが出来なくなってしまった。
「俺もそのつもりで来たっスから」
ティーダの言葉にユウナは顔を上げる。すると、そこにはティーダのはにかんだ表情があった。
「だから、その……手を繋がないっスか?」
トクン、と大きく心臓が震えた。少しだけ、世界が滲んで見えた。
キミと再会してから距離が開いてしまった気がしていたけど、そんな事は無かった。キミは変わらず、キミのままでいてくれたし、……私の事を想ってくれている。 どうして今まで疑ってしまっていたんだろう。キミはこんなにも一途に、素直に、気持ちを向けてくれていたのにも関わらず―――。 先刻前の自分をとても叱咤したい気持ちに襲われた。
ユウナは恐る恐る手を差し出す。するとティーダはユウナよりずっと大きな手で小さな手を包み込むかのように手を繋いだ。緊張するけど、 それ以上に安心をもたらしてくれるキミの手。あたたかくて、やさしいてのひら。
繋いだ手をお互い見つめ合うと、自然と笑みがこぼれた。直接、言わなくても、今は手に取るように分かる。あの時と一緒。あの時、 マカラーニャでちゃんとした言葉は交わし合っていないけど、相手が想ってくれている事は分かったから。
キミと私の思いは一緒、だね。最初から何も心配する必要は無かったんだ。
「じゃあ、早速行くっス!」
「うん!」
ミュールが軽やかな音を紡ぎながら、揃った歩調でティーダとユウナはルカの街中を歩き始めた。二人して、幸せそうな笑顔を浮かべながら。





END