砂糖入りのKISS

ジタン×ガーネット

夜のバルコニーに出て、夜風にあたる。初夏の涼しいような温かいような微妙な風が、2人を包む。夜が更ける前に、彼はいつも出ていく。そして、出る直前―――バルコニーから 木を伝って降りる直前に、彼は、いつもと言っていい位、”お別れのキス”をする。
正直、箱入り娘として育てられてきた私は、今までお付き合いをした人々は皆無。好きになった人も皆無。そう…私は、生まれて初めて、好きになった人物がジタンなのだ。 お付き合いの仕方なんて分からないなんて当たり前の事だし、同年代の友人もいないので、どう付き合えばいいの?なんて、相談する事もできない。

だから、毎回、緊張する。…彼の手が腰に回されて、近づいた時は。

彼の手が回されたということは、これから、”する”という合図。緊張のあまりプルプルと体が震えてくる。彼も彼で、この時ばかりは、いつものお調子者っぷりは 何処に行ったのか、静かでいる。彼が、目を閉じながら、顔を近づけると、自身も恐る恐る目をつぶる。
ドッドッド、と心臓があり得ない位、早く鼓動する。全身に血液がめぐって、体全体が熱くなる。もう何度もしていると言うのに、未だに慣れないし、…この先、慣れることが 無いと思う。彼の息が顔にあたる。目を瞑っている所為で、ほかの感覚が敏感になってしまう。それに、目を開けてないから、後、どれ位で、されるのだろうか、 と余計に想像力が働いてしまう。

彼の唇が、優しく触れる。
…彼は、いつも触れるだけのキスをする。触れるだけなのに、彼は何度も重ねてくる。
離れたかと思えば重なって、重なったかと思えば、触れる。それを何度も繰り返す。

いつもだったら、数回重ねると、じゃあなと言って、バルコニーから姿を消すのだが、今日は違った。妙に長いなと思った刹那、あるモノがぬるりと入ってきた。
自身の動揺もお構いなしに、彼は、し続けて、私のと絡ませようとする。今までしてきたキスとは違って、なんだかとても変な感じがする。今まで体験したかとがない感じ。
でも、触れる時の違って、息が思うように出来ない。彼の胸をドンドンと叩き、離れるよう促す。彼はすぐには離れなかったが、名残惜しそうにしながら、漸く離れた。
自身の胸を必死で抑えながら、息を整える。苦しくて、目が涙目にもなってきた。

「ジタン…!今、……!」
「わり!ちょっと、やってみたくなっちゃって」
「なっちゃって、じゃないわよ、もう…!」

必死で彼を睨みつける。…睨みつけてる筈なのに、何故か、彼の顔は赤く染まっていて、喉ぼとけが、動くのが見えた。
息が落ち着くと、また、腰に手をまわした。

「さ、さっき、したばっかりじゃない…!」
「いやぁ…やっぱり、もう1回したいなーって」
「!?」

ニヤニヤと口角を上げながら、彼はまた顔を近づける。
確かに、もう1回したいとは思うけど、まだ心の準備と言うものが。…だって、まだまだ触れるキス自体にも慣れていないのに、それ以上のキスをするなんて…!
近づいてくる体を両手で、全力で押し返した。

「ダガー?」
「ダメ!出来ない!!」
「…はぁ?」

赤い顔で、首を横に何度も振る。

― こればっかりは…!こればっかりは…!本当、ダメ…!

彼は、どうして?と理由を求めて、顔を近づけてくる。青い瞳が目の前にあって、私の口をどもらせる。「あ…う……」と、変な声しか出てくれない。 彼の瞳を見てしまうと、口に出すことが出来ない。曇りのない綺麗すぎる青い瞳を目の前にして、正常になれる人なんていないに決まってるわ!
…だから、必死で、自分を奮い立たせて、目をそらし、口を開ける。

「だって、恥ずかしいんだもの」
「誰も見てないって!」
「そういう問題じゃないわ!」

ドレスをぎゅっと握り、彼を真っ向から睨みつける。
でも悲しいかな。彼は、睨みつけられてる筈なのにビクともせず、私の体をふわりと抱きしめた。顔を彼の胸に押しつけられているから、今、彼がどんな顔をしているのか 気になるのに、見えない。抵抗してみても、彼の腕にしっかりとホールドされてしまって、動けそうにない。
抵抗するのをあきらめて、渋々といった感じに、彼の背中に腕を回す。先程と、同じ構図な筈なのに、どこか違う気がするのは何故だろう…?

2人して黙ってしまった為、夜の音が、耳に届く。
風に煽られている葉の音が、途切れなく、耳に届く。

静寂を先に破ったのは、彼の方だった。

「…嫌では無いんだろ?」
「う…うん」
「正直に言ってくれるか?ダガーは、したい?したくない?」
「……し、たい」

表情が見えない所為か、素直に言えなかった言葉がすらすらと出てきた。
彼は、抱きしめてる腕を静かに離す。自然と、目が合った。そして、ゆっくりと、彼が近づいてくるのを待つ。

触れるだけのキスを数回かすると、…入ってきた。歯垢をなぞりながら、慎重に。
何をどうしたら良いかわからず、とりあえず、彼に託す。たどたどしく、返していると、無意識のうちに声が漏れだすのが分かった。

「……ふっ…」

こんな声を出すとは思っていなくて、一気に恥ずかしく感じる。
羞恥心に駆られるけど、彼のキスが優しくて甘くて、羞恥心は何処かに消えてしまった。彼の甘いキスが自身を浸食してるおかげで、体全体が溶けてしまいそうだ、 とぼんやりと頭の片隅で思った。





END